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ミステリーの愉しみ① 『奇想の森』

6月28日日(火)
61_convert_20110628143012.jpg 図書館に『ミステリーの愉しみ』の1巻から4巻まで並んでいるのが目に入った。本の紹介によると「鮎川哲也と島田荘司。夢の顔合わせによる決定版アンソロジー、ついに実現。絢爛華麗にして、奇々怪々精選黄金時代のミステリー」とある。1巻は「奇想の森」、2巻は「密室遊戯」、3巻は「パズルの王国」、4巻は「都市の迷宮」という表題で、本の内容も題名に関係している。

戦後まもなくの本格推理を中心に活況を呈していた時期、社会派推理が台頭して色々な作品が生み出された昭和30年代、昭和40年代半ばの探偵小説リバイバル・ブームの流れを受けて創刊された「幻影城」から登場した新人と、戦後推理小説界の30年に大きなうねりがあった。

1巻の『奇想の森』は江戸川乱歩、横溝正史、木下宇陀児、坂口安吾など18人の短編で構成されている。時代的は4巻の中で1番古く、大正14年の乱歩の作品から昭和29年の安吾の作品までの間に書かれた作品を選んでいる。

島田荘司氏は1巻の解説「奇想の昏い森」の中で日本のミステリーの精選集を編み、その1巻を担当したそのコンセプトについて次のように語る。
「この作品集におけるキーワードは「奇想」である。そしてこれこそが、ある小説をミステリーと呼ぶに足るものとする1片のクリスタルである。いかしこの水晶片は、天才のみが手に出来る危険な麻薬であったため、普遍性がなかった。しかし平成本格の動きを本物とするには、作者は、再びこの危険物に手を伸ばさなくてはならない。

本格推理では「冒頭におけるミステリアスな謎こそが最重要」「結末の意外性こそ最も重要である」「最後の1行によって、読者に強烈な意外性を与えるのが理想である」という幾つかの視点があるが、こういった主張に筆者は同意している。「奇想の森」であるが、ここには昏い色をした森が見事にヴァラエティに富んだ発想の枝を広げ、葉を接して林立している。

戦後かなりの勢いで奇想は復活するのである。この復興の時代は20年代いっぱい続いている。そしてこの時代をついに終わらせたものは、松本清張の「点と線」であった。いわゆる社会派リアリズムの呪縛が作動するのは、昭和33年代以降という事になる。」(解説「奇想の昏い森」より)

18篇の短編の中に書かれた時代背景は戦後まもなくの世界である。そういった世界の中で繰り広げられる謎解きに、果たして興味を持ちうるものだろうかという思いで読み進めたが、凝縮された硬派の短い文章の中からつむぎ出されるのは、全く飽きさせることのないミステリーの連続だった。

昭和20年代の推理小説から島田荘司氏が厳選して選びぬいたものであるから面白くないわけはないのだが、全く違和感なくむしろ今の推理小説よりしっくりと受け止められることに驚いた。どの作品も短編という限られた時間空間の中で起承転結を完了させるその構成力と筆致は見事だ。

特に主人公や登場人物の心理描写が深い。その心の有り様を探っていくことから事件解決に導いていくといった手法がとられている。例えば以下の文章が小説の中に臆面もなく描写される。そしてそれが全く違和感なく、むしろそれによって主人公の心理がより一層明確になる、そういった手法が、この短編が書かれた昭和10年という時代の流れの中で極めて効果的な役割を果たしているのだ。

「あなたはそれほど死というものが恐ろしいのですか。ああ死とはなんです。そして生とはなんですか。命とは闇から闇へと飛ぶ白羽箭の、一瞬の電撃をうけて、チラと矢羽を光らせたその瞬間のようなものではありませんか。
すべては闇から闇へと流れていくはかない駒の足掻きにしか過ぎません。たとえ10年20年生き延びたところでそれがなんでしょう。この広大無辺な宇宙の闇に比べたら、葉末に結ぶ白露よりもなおはかなく脆いものではありませんか。」(「藪の中」横溝正史)

18篇の短編の作者は全く共通点がある訳でなく、極めて個性的で独自の視点と感覚の相違が際立って感じられる。その全くの感性的、理性的、文体的相違が短編小説を読みながら様々な世界を渡り歩いている感覚を得ることが出来る。

現代のような科学捜査万能の時代ではない昭和初期や20年代の謎解きは警察や探偵が物証を丹念に採取し、そこに見られる問題点から事件解決の糸口を見出していく。同時に登場人物からの事情聴取、日常会話などから、その人の心理分析を通し犯人像に迫ってく。こういった一見回りくどい捜査が、逆に推理小説の解決への道を面白くしてくれているのも事実である。

そういった意味で、昭和初期から戦争で中断され、昭和20年代に書かれた推理小説に興味が持てるかどうかといったことは杞憂でしかなかった。それよりも登場する作者の個性の強さ、視点の独自性に驚くばかりであった。次々と異質の世界に訪問している感じだった。

「奇想の森」の18篇の選者は島田荘司氏であるが「読者は1年かけて厳選したこれだけの粒ぞろいをいきなり読めるのである。日本に確実に存在した本格の黄金時代の息吹に、ひととき別世界で遊んでいただけることうけあいだ」と語る。多様な推理小説の世界を『奇想の森』を読みながらしばし逍遥してみよう。

テーマ : 思ったこと・感じたこと
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