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佐野洋子『100万回生きたねこ』

8月5日(火)
100mann.jpgこの絵本が語っているのは死の意味である。しかし死は虚無である。死については誰も語ることは出来ない。ならばどうするのかそれは生について語ることである。いかに生きたかがいかに死ぬかを照射するのである。

Story: 100万回生まれかわっては、飼い主のもとで死んでゆく猫。飼い主たちは猫の死をひどく悲しんだが、猫自身は死ぬのなんか平気だった。ある時、猫は誰の猫でもない野良猫となり、一匹の白猫に恋をする…。

生とは、死とは、幸福とは、愛とは、それが自分の人生にとってどういった意味を持つのか、この絵本は考えるヒントを与えてくれる。一匹の猫を通して本当に生きるということはどういうことなのかを示唆してくれる。

100万回も死んで、100万回も生きて、100万人に愛された猫。 でも、愛することを、知らなかった。100万回生き返るまで、彼は自分自身を生きてはいなかった。ただの飼い猫であり、自分の意志で生きることは出来なかった。100万回生き返った時、彼は自分の幸せを、一匹の白猫を愛することによって自分の手で見つけた。どんな刺激的な生活を送ることより、深く愛することができる一人を見つけることができたならそれ以上の人生はないと感じさせる物語だ。

今の社会の中で、人は様々な制約の中で自らを見失い、組織の歯車として自らの意志で動くことを否定されている。その中で人は自分ではない自己を生きざるをえない境遇に叩き込まれている、抑圧された中で、本当の自分を偽りながら、自分を否定しながら生きていく中で、まさに飼い猫のように、やがて自らを見失い、自分を愛すること失念してしまうのだ。そして同時に人を本当に愛することも。 いかに安逸に思えても、それが自らの桎梏であることを自覚した時、その頚木を断ち切り自立した自己として目覚めた時、本当の自分が見えてくる。

100万回生きた中で巡り会った100万人の飼い主たちは、自分なりに猫を愛した。しかしそれがそのねこにとって本当の幸せだったのだろうか。おいしいものを食べ、暖かい環境の中で大事にされそれが本当にねこにとって幸せだったのだろうか。どんなに恵まれていようが飼い猫であった。そこに自由はなかった。100万回生きようと、たった一度の生であってもそこに違いがるのだろうか。たった一度の生であるからこそ慈しみ愛されるものなのだ。自己を失った生は何度繰り返されようが虚無でしかない。

野良猫になって初めて自分自身の生を獲得する事が出来た。自分の思うままに生きる事が出来た。そういった自己の感性の解放の中、始めて自分の心を正直に表現できるようになった。そして白猫への愛を語る事が出来た。そんな当たり前に思える生に巡り会うまでに100万回も生きなければならなく、100万人に飼われ、100万回も生まれ変わった猫。

1匹の白い猫に出会い、その白い猫を愛し、子供を持ち家庭を築いた猫は自分の人生に満足した。100万回の人生を生きながら、しかし何よりも意義のある人生を白い猫と苦楽をともにし、白い猫が年を取ってなくなると、悲しみのあまりともに亡くなってしまい、そして新たな転生をすることはなかった。長く生きることに意味があるのではない。自分の生をいかに生きるかが重要なのだ。

死は生の一つの結果である。完成された生は死の恐怖や喪失感を無意味なものとする。充足した生は死を受け入れる事が出来る。この絵本は色々な読み方ができ、その中で自分の現状を振り返り自分の本来の姿を見つめるために役に立つだろう。飼い猫から自立した猫への道をどう歩むのか。これは今の社会の制度の中でがんじがらめに縛られ自己を見失っている人々への警鐘である。

テーマ : 思ったこと・感じたこと
ジャンル : 日記

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No title

今、15歳の猫(肺腫瘍)の傍に付き添って、様子を見ています。
食べなくなって、10日になります。
日に日に痩せ、足もグラグラになってきました。
点滴しかないので、1回5000円かかりますが、奇跡と、生命力を信じて、受けています。
猫自覚で検索して、拝見させて戴くことになりましたが、良い絵本を紹介頂きました。
一番の趣味とか楽しみをお教えください4.

今の生活

猫の容態心配ですね。可能な限りの治療受けられる猫は幸せだと思います。

趣味といっても難しい所があります。年金生活で仕事をしていないのでやっていることは全て趣味だといえるでしょう。今の生活で一番いいのは好きな時に好きな所に行けるということです。時間の選択が自分で出来るということです。楽しみといえば近場の花の名所や神社仏閣のコースを散策したり、旅行に行ったりすることです。これは同時に歩くということで運動不足になりがちな生活に張りを持たせようとする意味もあります。

自宅で音楽を聴いたり、本を読んだりすることも趣味の一つです。ブログを書くことも一つの生き方の表現です。ももの木の「いのちの授業」に参加し、小学生に話をしますが、それは自分にとってきわめて意義のある時間となっています。このように様々な行動が結び合いながら、自分の生活を形造っているので、なかなか優劣は付け難いです。
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Author:yosimine
がん治療とは長く細い道を辿ら
なければならない。その先に希
望があると信じながら。

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