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カミュ 『ペスト』

2月28日(土)
211403_convert_20090228220045.jpgカミュの『異邦人』『シーシュポスの神話』と来れば次は『ペスト』だ。藻屑の如く消え去ってしまう本と違って、受け継がれていく本には何かが宿っている。何十年かたって読んでみるとまた新たな思いに駆られる。

STORY:アルジェリアのオラン市で、ある朝、医師のリウーは鼠の死体をいくつか発見する。ついで原因不明の熱病者が続出、ペストの発生である。外部と遮断された孤立状態のなかで、必死に「悪」と闘う市民たちの姿を年代記風に淡々と描くことで、人間性を蝕む「不条理」と直面した時に示される人間の諸相や、過ぎ去ったばかりの対ナチス闘争での体験を寓意的に描き込み共感を呼んだ長編。(「BOOK」データベースより)

物語は淡々と進む。街にペストが発生し、毎日のように何百人という死者が生み出されていく。この悲惨な現実を激情や、愁嘆場としてではなく、冷静に客観的に記述していく文章の流れが、刻々移り変わっていく現実をよりリアルに映し出している。小説の最後のところで筆者は言っている。

「彼は善意の証言者にふさわしいような、ある種の控え目さを守った。しかし、同時にまた、公明な心の掟に従って、彼は断乎として犠牲者の側に与し、人々、同じ市民たる人々と一体になって、彼らが共通にもっている唯一の確実なもの、すなわち愛と苦痛と追放とを味わおうとした。」

語り手である主人公は、自分たちは結局何もコントロールできない、人生の不条理は避けられないという考えを力説する。カミュは不条理に対する人々のさまざまな反応を例示し、いかに世界が不条理に満ちているかを表している。この現状に対し、主人公の医師リウーの「人類の救済なんて、大袈裟すぎる言葉ですよ、僕には。僕はそんな大それたことは考えていません。人間の健康ということが、僕の関心の対象なんです」という言葉が、ペストに蹂躙されたこの不条理な世界に反旗を翻す出発点なのである。

同時に、拡大するペストの恐怖の中、人々は結束してペストに立ち向かおうとする。それは利害と打算と助かりたい気持ちからであったとしても協力関係が築かれていく。ここに無慈悲な運命と人間との関係性が問題提起される。

医者、市民、よそ者、逃亡者、キリスト教者と、様々な人々がペストの脅威を媒介として新たな繋がりが生み出していく。逃れられない運命、ペストという全く予期せぬ死を強制する宿命に空しく打ちのめされながらも、それに抵抗しどのように生き延びていくかの終わりの見えない闘いが延々と続けられていく。

この世の不条理性は否定しがたい。「人生は生きるに値するのか」の答えはない。しかし、強制されようとする運命にあくもでも抵抗し“否”と言い続けることを通して、その宿命を跳ね返していく事が可能ではないか、という問題提起をこの『ペスト』で言おうとしているのだろう。

『異邦人』では与える事が出来なかった回答を、この『ペスト』で出そうとしとのではないか。まさに不条理な世界における生き方、運命を受け入れるのではなくそれに抵抗する人間を描き、その世界からの脱却をまさに「反抗的人間」として表明しようとしたのではないか。

この作品は第二次世界大戦時のナチズムに対するフランス・レジスタンス運動のメタファーではないかということだ。戦争や疫病、人である限り不可避な死にどう向き合っていくのか。不条理な世界に埋没するのではなく、自らの運命を自ら選択していく意思と決意が求められているのだろう。

ニーチェの「神は死んだ」から始まる思想は、自分の外にあらかじめ与えられた真理・絶対者がいない世界で如何に生きるかを問うものであった。何が正しいかが確定されないということは何をしてもいいということではない。神が何をなすべきかを決めるという発想も、神がいないからすべては許されるという発想も、そのどちらもカミュは否定した。

死を免れない全ての人間は、自分自身の内面に追放されているという根源的世界観からすれば、カミュにとって幼児の病死と、戦争での死は共に “悪”であり、この悪を憎み、悩み、それと戦い続けることに、すべての価値を賭けるのがカミュの態度である。その限りで、ペストに襲われたオラン市とは、人間の世界そのものにほかならない。

「私はあるひとつの観念のために死ぬ人たちに虫唾が走る。私はヒロイズムを信じない。私が興味を覚えるのは、愛するもののために生き、愛するもののために死ぬことだ」カミュのこの言葉こそ不条理な世界を突破し生き抜いていく方向を示しているのだろう。

テーマ : 思ったこと・感じたこと
ジャンル : 日記

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