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ジョン・グリシャム 『無実』

6月27日(土)
 ジョン・グリシャムの小説はほとんど読んでいる。弁護士をやっていただけあってアメリカの刑事法の知識をふんだんに駆使しながら、物語を展開していくリーガル・サスペンスとしてかなり読み応えがある。『無実』は彼が始めて手がけたノンフィクションである。

無実_convert_201005072034081982年オクラホマの小さな町で起きたレイプ殺人事件で、逮捕され死刑執行直前までいった被告が無罪を勝ち取るまでの経過を淡々と時系列に従って記述したものである。物語としてのダイナミズムはないが、事実が何よりも人に衝撃を与える。

アメリカの警察、検察などの法執行体制の問題点、陪審制度の問題などが抉り出される。一方、良心的裁判官の存在や、冤罪事件に情熱を注ぐ弁護士たちの活躍も描かれている。

オクラホマ、エイダで起きたレイプ殺人事件の捜査は思うように進まず、5年後になって容疑者として地元出身の元プロ野球選手ロン・ウィリアムスンとその友人のデニス・フリッツが逮捕された。

長い裁判の結果、ロンは死刑判決、デニスは終身刑の判決を受け、刑務所に収監された。ロンは上訴審を闘うが、全て敗訴し、刑の執行日が1994年9月27日がと決まる。

 執行日が決まると人身保護令状の請求が出来る。この申請を読んだのが連邦裁判所治安判事ジム・ペインだった。ペインはロンの公判の正当性に疑問を持ち、フランク・H・シーイ判事と協議し、ロンの死刑停止を決定した。それは刑の執行日のわずか5日前だった。

その後、シーイ判事のチームは1年かけて、公判調書や証拠関係を精査し、人身保護令状を発行し、公判のやり直しを認めた。決定に付随する意見書で、再審決定の理由を多々挙げている。

① 弁護人が効果的支援を行わなかったこと:ロンの精神面における責任能力の問題を持ち出さなかった。自白の信用性に疑問を投げかけ裁判の前に排除しなかった。最有力容疑者ゴアの有罪を示す証拠を徹底して調査し提示しなかった、など。
② 検察、警察が非難された理由:疑わしい手段で得られた自白を証拠として用いた。拘置所内の密告者を証人として証言させた。物的証拠がほとんどない状態で起訴した。被告人の無罪を証明しうる証拠を隠していた。
③ 毛髪分析は信頼性が低すぎるので、あらゆる裁判において禁止されるべき。
④ 判事の間違い:検察側が被告人の無罪を証明しうる資料を伏せていたブレイディ規則違反の審理を公判が終わるまで保留した。弁護士の法医学の専門家に反証のため証言させたいとの要求を却下した。

シーイ判事は言っている。「この素晴らしい国で公正な裁判を受けられなかった人々が死刑になろうとしている時、わたしたちが目を背けているとしたら世も末だ。この件では危うくそれが現実のものとなる所だった。」

そしてついに1999年4月15日、逮捕から14年、ロンとデニス無罪の判決が出された。最終的な決め手となったのは、犯行現場にあった精液のDNAの鑑定の結果、被告人2人のものと一致しなかったということだった。

「イノセント・プロジェクト」という人権団体がDNA鑑定によって死刑囚、188名の無実を証明して、解放した。一時代前のDNA鑑定や毛髪鑑定が、その精度においてかなりの不確実性があったにもかかわらず、科学の名を持って、被告を有罪としていったことが、覆されてきている現状があるという事だ。

暴力的取り調べによる、嘘の自白の強要。証拠の捏造。検察寄りの鑑定人による検察の意図に沿った鑑定結果の作成。この事件でも最初は現場に残された血のついた掌紋が被害者のものでもなく被告のものでもないと鑑定していたが、再度鑑定した結果被害者のものであると意見を変えた。それによって、被告人の逮捕に至るのである。

陪審員は鑑定人が法廷で、専門用語を駆使しながら、現場に残された毛髪は被告人のものであると断言すればそれを信じてしまうのは当然だ。鑑定という科学の名を借りて、陪審員を騙すのはもっとも効果的である。その精度や信頼性についての判断は陪審員には不可能だ。

裁判員制度が始まったが、警察、検察が証拠を捏造していたとしてもそれを見破るのはきわめて難しいだろう。以下最近の3つの事件を列挙して最近の冤罪事件について考える参考にしたい。

 最近の日本での冤罪事件

足利事件:1990年5月12日、栃木県足利市で、真実ちゃん(4歳)が行方不明となり、翌日、近くの渡良瀬川河川敷で遺体となって発見された。1991年12月2日、DNAの結果、真実ちゃんの下着についていた精液と一致したことから市内の幼稚園バス運転手(当時45歳)が逮捕された。無期懲役判決が確定する。
2009年5月、そのDNA鑑定が崩れ落ちる。弁護側推薦による再鑑定で、「不一致」の結果が出たのである。5月19日、弁護側は刑の執行停止を申し立て、6月4日、菅家氏は千葉刑務所から釈放された。
*DNA鑑定の精度が高まり90年代初頭の「1000人に1、2人」から、最近では「4兆7千億人に1人」まで判別できるようになった。

富山事件:富山地検が07年1月19日、強姦と強姦未遂の2事件の容疑で起訴、懲役3年の実刑判決を受け服役した、同県氷見市のタクシー運転手の柳原浩さんが、別の罪で公判中に無職の被告がこれらの事件の容疑を認めたためえん罪事件であったことが明らかになった。

志布志事件:中山県議らが住民11人に191万円を配ったとして同県議の妻をはじめ、同県志布志市の住民計13人が公職選挙法違反(買収、被買収)の罪で鹿児島地裁に起訴された事件。鹿児島地裁は07年2月、「強圧的な取り調べがあった」として12人全員(1人は死亡のため公訴棄却)の自白の信用性を否定し、無罪を言い渡した。

テーマ : 思ったこと・感じたこと
ジャンル : 日記

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裁判員制度が始まったり、足利事件の冤罪の訴えが認められたり、ということで、このごろ裁判に関する関心が高まっていますね。
ずっと前に私の義理のおばが、すりの疑いをかけられて数時間警察に身柄を拘束されたことがありました。無実とわかり開放されましたが、血圧が高かったおばはその後体調を崩してしまいました。彼女いわく、警察では被害者の言葉だけを信じて何を言っても信じてもらえず、厳しい取調べを受けたとのこと。
私が知っている交番の警察官はみんなとても親切で丁寧に応対してくれていましたから、その話を聞いて本当に恐ろしくなりました。
足利事件の一件で、精度の低いDNA検査により有罪となった可能性がある死刑囚がいるとも聞きました。死刑制度のあり方にも一石を投じたと思っています。また、検査のあり方や精度の問題は、医療分野での検査にもあるかもしれないと、ちょっぴり不安を感じました。

義理のおばさんも大変な目に遭いましたね。警察の密室での長時間取り調べの中でとられた自白が証拠として採用されるということが冤罪事件を生む大きな原因だと思います。
どんな強靭な精神力を持っている人でも、何日も、何十日も朝から夜12時頃まで入れ替わりたち替わり来る警察官の暴力的的取り調べの中で、やがては取調官の言うがまま、彼らの書いた筋書きに従って嘘の自白をしてしまうものです。
和歌山カレー事件の林真寿美被告の夫が言っていましたが、やってなくてもやったと言わされるよう厳しい取調べを受けていながらあくまでもやってないことを言い続けたんだから本当にやってないのではないかといっていたが、それ程までに取り調べは苛酷です。
再審無罪になった免田さんは、取り調べの時柔道場に連れて行かれて、何度も取調官から投げられたと言っている。今は表立って殴ったり蹴ったりの取り調べはないかもしれないが、長時間眠らさないでの取調べなどは普通に行われています。
裁判では警察官は取り調べの任意性を強調する。裁判官はそれを信じて調書を採用し有罪判決を下す。これが延々と続けられているのが現状です。こういった現状を変えていかない限り冤罪は起こり続けるでしょう。
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Author:yosimine
がん治療とは長く細い道を辿ら
なければならない。その先に希
望があると信じながら。

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