スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

山本周五郎の小説

11月9日(月)
池波正太郎の図書館にある連作物『鬼平犯科帳』『剣客商売』『仕掛人藤沢梅安』を一通り読んだ。娯楽小説として全く飽きさせない筋立ての組み立ては見事という他ない。内容は勧善懲悪そのものだ。「水戸黄門」が40年間放送を続けていていまだ人気が衰えない。視聴率でもNHKの大河ドラマに続いて2位の座をずっと占めている。

一般庶民にとってこの勧善懲悪はすこぶる分り易いのだろう。世の中中々思うようにならない。それをすっきりと割り切って解決するその爽快感をせめてドラマや小説で味わいたいと思うのは当然だろう。

池波正太郎の次は誰の小説を読もうかと思った。若い頃、二十歳過ぎの女性が山本周五郎のフアンだと言っていたのを思い出した。その頃は何で時代小説に興味など持つのだろう、そして名前しか聞いたことのない山本周五郎の小説はどんなものだろうと思った。ともかく読んでみようと思って図書館から何冊か借りてきた。

まだ短編小説を4,5冊しか読んでいないが、高潔な人格を尊ぶ道徳性が彼の小説の底流にある。様々な展開があるが人間とはこうあるべきだという彼の理念が小説に反映されている。彼は庶民や下級武士、遊女など江戸時代の厳しい身分制度の中で懸命に生きる人間の哀歓を情感豊かに描きながら、その中から人が生きることの意味を見出そうとしてきた。

“武家もの”に関しては、本来武士の道義の根幹である、信義礼智仁を貫くことを自らの利害よりも重んじそれに殉ずる人物が描かれている。これは、ある意味で道徳大系としての武士道に通じているのだろう「君に忠、親に孝、自らを節すること厳しく、下位の者に仁慈を以てし、敵には憐みをかけ、私欲を忌み、公正を尊び、富貴よりも名誉を以て貴しとなす」。

こういった考え方は、実際には幕藩体制の爛熟の中で有名無実化されてしまってきている。その中でなおかつあくまでも武士としての信念を貫こうとするのが小説の主人公である。山本周五郎は、信義を貫くため、自らの命を賭け、家族や出世など現世的生活さえ捨て去ることをも厭わないそういった主人公の生き方を描いた。こういった主人公を通して世俗的利害に翻弄されている現代社会に欠落している無私の心、「人間性」の復活を訴えようとしたのではないか。

51X36SeIhDL__SL500_AA240__convert_20091109202818.jpg 大分前に『雨あがる』という黒澤明脚本、寺田聡と宮崎美子主演の映画を見たことがあった。その時は山本周五郎という原作者の名前は印象に残っていない。心にずしんと残る映画だった。その小説が『おごそかな渇き』の中にある。

主人公は仕官の口を求める旅の途中で雨に降られ、川の氾濫により木賃宿に足止めをくうことになる。宿に逗留せざるを得ず、食うものにも事欠く貧しい旅人たちの殺伐とした気分を和らげようと、賭け試合で金を都合し人々に酒や食べ物をふるまう。しかしその行為が決まりかかっていた仕官の道を阻んでしまう。

主人公の妻は仕官がかなわなかったことを告げに来た使者に次のように言う「主人も賭け試合が不面目だということぐらい知っていたと思います、知っていながらやむにやまれない、そうせずにはいられないばあいがあるのです。主人の賭け試合で、大勢の人達がどんなに喜んだか、救われた気持ちになったのか」。主人公の無私の行為、そしてその妻の主人公への溢れるばかりの思いやり、これが山本周五郎の一つのテーマだ。

ここに貫かれているのは、彼の生涯の指針とした「人は何を為したかではなく、何を為そうとしたのかだ」といった考え方だろう。主人公が「何をしたのかではなく、何のためにやったか」それが重要なのだ。

“下町もの”では貧しさの中で義理・人情をあくまでも健気なまでに貫こうとする市井の人が描かれている。人間の悩み苦しみながらも貫こうとする生を真正面から肯定し、真摯に生きることの尊さを下町の人達の生活描写の中から紡ぎ出そうとしている。名も無き人々の喜びや悲しみを描きながら、人として普遍的なテーマ「人情、愛、人間の尊厳」を何気ない日常生活の中に見出していくのである。

山本周五郎の言葉

「人間の為したこと、為しつつあること、これから為すであろうことは、すべて時間の経過のなかにかき消されてしまう。--慥(たし)かなのは、自分がいま生きているということだ、生きていて、ものを考えたり悩んだり苦しんだり愛しあったりすることができる、ということだ。」

テーマ : 思ったこと・感じたこと
ジャンル : 日記

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

yosimine

Author:yosimine
がん治療とは長く細い道を辿ら
なければならない。その先に希
望があると信じながら。

最近の記事
カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
ブログ内検索
最近のコメント
最近のトラックバック
カテゴリー
リンク
月別アーカイブ
RSSフィード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。