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山本周五郎 『赤ひげ診療譚」

11月10日(火)
61PD3VBK46L__SL500_AA240__convert_20091110231241.jpg『赤ひげ診療譚』を読んだ。この小説は赤ひげこと新出去定が、見習い医員である保本登に語る言葉を通して、山本周五郎が自らの人生哲学を余す所なく語ろうとしたとのだと思う。

物語は保本登を巡って展開される。幕府の御番医という栄達の道を歩むべく長崎遊学から戻った保本登は、徳川幕府による無料診療所・小石川養生所の“赤ひげ”とよばれる医長新出去定に呼び出され、医員見習い勤務を命ぜられる。貧しく蒙昧な最下層の男女の中に埋もれる現実への幻滅から、登は赤ひげに反感を持つが、次第に彼の人柄に魅せられてゆき、最後は出世の道を捨てて赤ひげと共に貧民救済の医療を志すようになる。

この小説を読んだ時に、ドイツの教養小説(ビルドゥングスロマン)の感じを受けた。保本登が、赤ひげとの関係、様々な人とのふれあいの中で人間的に成長していく過程が描かれている。

この展開はゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代・遍歴時代』を感じさせる。この本の中でマイスターは次のように語る「いかに人類が、罪ある人にたいしても優しく、犯罪を犯した人をいたわりをもって、非人間的な人を人間的に扱うことができるようになるまでには、実に長い道のりが必要だったんだ。」この小説によって、啓蒙思想の流れを汲みながら、ドイツの封建制度を越え、自由な市民はありとあらゆる多面的な人間形成への権利を持っていると宣言しようとしたのである。

医療費など支払う事ができず、医者にかかることなど出来ないそれ故、病気になれば死ぬしかない最下層の人への医療活動を続けているうちに保本登は人間的に成長していく。彼の語る言葉は次第に自己本位から他者との関係の中における自己を見出していく。『赤ひげ診療譚』の中から新出去定の言葉を通して山本周五郎の人間に対する考え方が書かれて所を引用してみたい。

『赤ひげ』の中の山本周五郎の言葉
病気が起こると、或る固体はそれを克服し、別の固体は負けて倒れる、医者はその症状と経過を認めることは出来るし、生命力の強い固体には多少の助力をすることも出来る、だがそれだけのことだ。

現在われわれのできることで、まずやらなければならないことは、貧困と無知に対するたたかいだ。貧困と無知とに勝ってゆくことで、医術の不足を補うほかはない。・・・それは政治の問題だと云うだろう、誰でもそう云って済ましている。だがこれまでかって政治が貧困や無知に対してなにかしたことがあるか。

世間からはみだし、世間から疎まれ嫌われ、憎まれたり軽蔑されたりする者たちは、むしろ正直で気の弱い、善良ではあるが才知に欠けた人間が多い。これがせっぱ詰まった状態にぶつかると、自滅するか、是非の判断を失ってひどいことをする。

かれらも人間なのだ。貧困と無知のため苦しんでいるものたちのほうにこそ、おれは却って人間のもっともらしさを感じ、未来に希望が持てるように思えるのだ。

人間ほど尊く美しく、清らかでたのもしいものはない、だがまた人間ほど卑しく汚らわしく、愚鈍で弱で貪欲でいやらしいものもない。・・・この世から背徳や罪悪をなくすことはでないかもしれない。しかしそれらの大部分が貧困と無知からきているとすれば、少なくとも貧困と無知を克服するような努力がはらわれなければならない筈だ。

暇に見えて効果のある仕事もあり、徒労のようにみえながら、それを持続し積み重ねる事によって効果のあらわれる仕事もある。おれの考えること、して来たことは徒労かもしれないが、おれは自分の一生を徒労にうちこんでもいいと信じている。

罪を知らぬ者だけが人を裁く。罪を知った者は決して人を裁かない。

あの女は無知で愚かというだけだ、それもあの女の罪ではなく貧しさと境遇のためなんだ。悪い親だが、どなりつけたりいやしめたりすれば一層悪くなるばかりだ、毒草から薬を作り出したように、悪い人間の中から善きものを引き出す努力をしなければならない。人間は人間なんだ。

テーマ : 思ったこと・感じたこと
ジャンル : 日記

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がん治療とは長く細い道を辿ら
なければならない。その先に希
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