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東野圭吾 『時生』

12月3日(木)
時生eee_convert_20110113225108 東野圭吾の小説は、『容疑者Xの献身』や『探偵ガリレオ』など十数冊を読んだ。理工系の発想法でいわば科学推理小説といった所だ。『超殺人事件』の中の「超理系殺人事件」などは彼の経歴を感じさせる。

また発想法も多彩で、謎解きを中心にした古典的本格推理小説から、社会派推理小説、『手紙』に見られるまったく傾向の違う小説や、随所に見られるユーモアのセンス、こういった様々な要素を組み立てながら書き上げる小説は人を引き付けざるを得ない。

彼の小説『時生』を読んだ。図書館にある東野圭吾の小説は全て読んだが、全てといっても10冊もない。書棚を見たら読んでない『時生』があったので借りた。物語の展開は、主人公宮本拓実がトキオと名乗る少年と、謎を残して消えた恋人を様々な困難を経ながら助け出す話なのだが、それを縦糸としながら、トキオの執拗な誘いによって拓実は自らの出生の秘密を追い求める話を横糸として進行する。

物語は、不治の病を患う息子に最期のときが訪れつつある時、拓実は妻に20年以上前に出会った少年との想い出を語る所から始まる。20年前に会ったトキオこそ、死の床にいる息子が、他人の体を借りて過去に戻り、自分の前に現れたのではないか、ということがこの物語の厚みをさらに増している。

20年前の拓実は一つの仕事が長く続かず、大言壮語ばかりで、短気で喧嘩っ早くその日暮らしの自堕落な生活をして、自らの出生を呪っているようなどうしようもない男だった。この拓実がトキオと行動を共にし、産みの母と再会し、自分の出生にまつわる父母の思いを知り人間的に成長していく。物語は過去、現在、未来が交錯しながら進行する

この小説には大きく2つのテーマが感じられる。1つは生まれてきたことの意味を探り求めることの意味である。「あの子に訊きたい。生まれてきてよかった?」この言葉が本の帯に書いてあった。人はどのような時生まれて来てよかったと感じるのだろうか。あるいは生まれてこなければ良かったと。

拓実の妻はグレゴリウス症候群の遺伝的家系に生まれた。生まれた子が男児であれば、その子は4分の3の確率でこの病気にかかる。15,6歳から発症し、最初は運動機能、次に内蔵機能の障害から麻痺へ、そして最後は心臓や脳の機能麻痺に至る。それでも拓実は子供を生むと主張し子供は生まれる。やがて病気が発症する。「生まれてきてよかった?」これは拓実の妻が植物人間状態でベッドに横たわる息子への問いかけである。そして息子の応えは「明日だけが未来ではない」だったのだ。

一方拓実は若い頃、母親に捨てられたことを恨みに思い、自分の自堕落な生活を捨てた母親のせいにしている。「勢いで生んじまって、育てるのが大変だから投げ出した」といって病気で何時死ぬか分らない生みの母親を訪ねて行こうともしない。

しかし自分の出生の秘密を知り最後に生みの母親を訪ね「あんたのせいじゃねえよ、もうあんたのせいにしない。俺を生んでくれたこと感謝するよ、ありがとうな」という。ほとんど意識がないと思われた母親の目に涙が浮かぶのを拓実はハンカチで拭く。今生きているということその事に感謝すること、そのことをトキオ、拓実の両方を通して訴えているのではないか。

2つ目のテーマは「明日だけが未来じゃない」ということだろう。この言葉は最初と終わりにも出てくる。生みの母親が拓実にあてて書いた手紙を読み終わってから、トキオが拓実に向っていう言葉の中にその内容が記されている。

「人間はどんな時でも未来を感じられるんだよ。どんな短い人生でも、たとえほんの一瞬であっても、生きているという実感があれば未来はあるんだよ。明日だけが未来じゃないんだ。それは心の中にある。それさえあれば人は幸せになれる。」(講談社文庫P447)

同時に他者との関係の有り方をも語っている「好きな人が生きていると確信できれば、死の直前まで夢を見られるってことなんだよ」とトキオは言う。「君が生き残ると思えば、今この瞬間でも未来を感じることができるから」この言葉は火事で死の直前に拓実の父親が母親に語った言葉だ。

死は確かに未来を奪うものでしかないように思われる。しかしその人の未来は肉体の消滅によって終るわけではない。ただどういった未来を残せるのかそれが多くの人にとって限りなく難しい問題であるのは確かだ。

テーマ : 思ったこと・感じたこと
ジャンル : 日記

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こんばんは。(^(Ξ)^)
点滴中に読むために,容疑者Xの献身(東野圭吾),アヒルと鴨のコインロッカー(伊坂幸太郎),姑獲鳥の夏(京極夏彦)を,入院時に持ち込みました。
副作用の高熱を下げるために,できるだけ寝たきり老人になっていたのと,副作用により入院期間が伸びたために,3冊では足りず,病院の売店で買いまししました。
伊坂幸太郎の品揃えがよかったので,買ったのはほとんどが伊坂作品でしたが,東野圭吾は「名探偵のの呪縛」と,加賀恭一郎シリーズの「眠りの森」と「赤い指」(テーマが重いので,読むのを中断中)を買いました。
「眠りの森」がよかったですね。
「容疑者Xの献身」も,テレビドラマのガリレオで見たようなムリムリな物理トリックではなく,楽しめました。○○をするために,××をするとは!
東野圭吾は,作品によってまったく作風が違うので,自分のなじめるジャンルかどうか,事前チェックがいりますね。

リツキシマブで高熱が出たとは大変でしたね。結局1週間退院を目指していたのが出来なかった訳ですか。副作用は人によって出方が全く違うので予測できない所が辛いところです。もう体調はいいのですか。六義園に行ける位の回復はしているのでしょう。
話は変わりますが、伊坂幸太郎の本は、息子がよく読んでいてそれを拝借して読みました。重力ピエロ、チルドレン、魔王、陽気なギャングの日常と襲撃などを読みました。面白いのとそうでないのの差がある様な気がしますが、これは私の感性の問題かもしれません。

こんにちは、私も最近、東野圭吾「赤い指」を読みましたが、最近の悲惨な事件とリンクして、途中で読むのを止め様かと思った位、重く感じました。

MOTOGENさんも言っているように、東野圭吾の小説は多種多様で、軽妙な謎解きから深刻な人間的葛藤を掘り下げ描写したものなどあって、確かに途中でその暗さと重さに投げ出したくなるような小説もあります。ただそういった小説が好きだから東野ファンである人もいるわけだから、読む前のチェックが必要なのかも知れません。
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がん治療とは長く細い道を辿ら
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