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伊坂幸太郎 『オーデュボンの祈り』

2月26日(金)
伊坂幸太郎は『重力ピエロ』を最初に読んだ。交錯した人間関係と謎解きの面白さに興味を引かれた。『陽気なギャングが地球を回す』『陽気なギャングの日常と襲撃』は軽妙な物語展開の速さで、痛快娯楽小説として飽きることなく読み進められた。その外『魔王』や『グラスホッパー』などを読んだが、彼の最初の作品である『オーデュボンの祈り』は今まで読む機会が無かった。

5181_convert_20100226180109.jpgSTORY:コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。江戸以来外界から遮断されている“荻島”には、妙な人間ばかりが住んでいた。嘘しか言わない画家、「島の法律として」殺人を許された男、人語を操り「未来が見える」優午というカカシ。次の日カカシが殺される。無残にもバラバラにされ、頭を持ち去られて。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止出来なかったのか?(「BOOK」データベースより)

「オーデュボンの話を聞きなさい」という優午からの最後のメッセージを手掛かりに、伊藤は、その優午の死の真相に迫っていく。そしてまた住民から聞いた「この島には、大切なものが最初から欠けている」という謎の言い伝えは何なのか。案山子の死と言い伝えの真相を伊藤は追っていく。

作者がこの架空の島を舞台として二つの視点で彼の世界観の構築を試みようとしているように思う。架空の閉ざされた島を舞台にすることによって作者の訴えたいことがより具体的に表現されている。一つはリョコウバトの絶滅の話だ。

ジョン・ジェームズ・オーデュボンは19世紀『アメリカの鳥』などの画集を出した植物学者だ。リョコウバトは、20億羽の群れで空を覆いながら飛ぶ鳥だった。人間はひたすら殺し続けた。1878年の「パトスキーの虐殺」では1ケ月に10億羽のリョウコウバトが虐殺され300トンの死骸が出た。そして1914年最後のリョコウバトが動物園で死んだ。

「人間ってのは失わないと、ことの大きさに気がつかない」「失ったものは二度と戻らない」作者は島の運命を暗示するようにリョコウバトの運命を語らせる。

もう一つは優午という案山子が語る未来についてだ。「未来を断定するには細かいことを知っている必要があるのです。そして遠くはなれた将来のことになればなるほど、ディテールは把握しにくくなります」

この言葉から伊藤は、カオス理論について言及する。カオス理論とは初期値鋭敏性ゆえに、ある時点における無限の精度の情報が必要であるうえ、数値解析の過程で出る誤差によっても、得られる値と真の値とのずれが次第に大きくなっていく。小さな要素の組み合わせでも未来に大きな影響を与える以上、正確な未来予想は不可能という事である、初期値のわずかな違いが未来の状態に大きな違いをもたらす。

カオス理論の表現としてバタフライ効果という言葉が用いられる。これは「カオスな系では、初期条件のわずかな差が時間とともに拡大して、結果に大きな違いをもたらす。そしてそれは予測不可能」ということの一つの表現である。この言葉はエドワード・ローレンツの「ブラジルでの蝶の羽ばたきはテキサスでトルネードを引き起こすか」に由来する。

優午という案山子が訴えたかったのは、未来は決定されているのではなく島の人達の意思によってどのようにでも変えられるということ、そのために自分にわかっているといわれている未来を語ることは出来ない、ということなのだ。「良くも悪しくも世界には大きな流れがあって、それには誰も逆らえない」ことがあるのかもしれない。しかし完全に予測できる未来など存在しない。時の流れを自ら選択し、運命を切り開いていくことは出来る。

伊藤の辿りついた非現実的な島、そしてそこで暮らす不可思議な登場人物たちの生活が、本文を読み進めていくうちに、日常的な世界として受け止められてくる。この外界から遮断された島の不条理さと、対比しているのが、仙台という一つの現実世界だろう。そしてそこで存在感を放つのが、伊藤の行方を執拗に追う悪徳警察官、城山である。

こういった虚構と現実を巧みに織り交ぜ、本格ミステリーの仕掛けも盛り込み、最後にパズルの断片が一つずつつなぎ合わされ、そこから真実の浮かび上がってくる筆致は見事という外ない。

テーマ : 思ったこと・感じたこと
ジャンル : 日記

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伊坂ワールド(^_^;)

 こんばんは。(´・(ェ)・`)
 テンプレ変わりましたね。

 『オーデュボンの祈り』は,入院中,売店で買って読みました。しゃべるカカシの話ということで,敬遠していたのですが,入院中が長引き,ほかに読みたいものがなくなったので,
 荒唐無稽な設定ですが,読んでみると,伊坂ワールド(売店のポップより)に引き込まれますね。

No title

2年半も同じテンプレートを使っていたのでそろそろ飽きてきました。MOTOGENさんのように季節ごとの風物を取り入れたテンプレートにするほどの甲斐性がないので当分これで行くと思います。
伊坂ワールドという言葉があるのですか。そういった視点で読んでみるのも面白いと思います。彼の小説も東野圭吾と同じように多種多彩なのでワールドといった言葉でひっくくれない所があるのも確かでしょう。
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