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宮部みゆき 『鳩笛草』

5月7日(金)
人の心に去来する感情は、どんな場合でも、純粋で混じりけのないものではない。喜びにはそれを失うのではないかという不安が、悲しみにはそれが生み元となったものに対する怒りが、侮蔑には優越感が―という具合に、配分の度合いはどうあれ、多種多様の物が入り混じって存在しているのが普通だ。(光文社文庫P201)

鳩笛_convert_20100507164037この言葉がこの小説に貫くテーマになっているのではないか。共通するテーマは、超能力者であるが故の悲劇や悲しみである。どこにでもいる普通に生活していた若い女性がある日自分の持っている能力に気がつく。

「朽ちゆくまで」で予知能力、「燔祭」で念力放火能力(パイロネキス)、「鳩笛草」では、透視能力。「喜ばしく持っている」わけではなく、「持ってしまった」といった感じの主人公が、その力をどうしたいいか思い惑いながら、周りの人に気がつれないように静かに目立たないように普通の生活を淡々とこなしている。

宮部みゆきの小説では、超能力者が登場するものが結構あるが、非現実的である超能力者が、特別の存在としてではなくどこにでもいる普通の人間として描かれている。超能力自身も決して特殊な能力ではなく、誰にでももしかしたら似たような能力をもっているのではないかといった印象を与える。誰にでもある得意技の一つのようなものだ。そういった意味で、主人公の悩みに対して、自分のことのように感情移入して読んでしまう事が出来る。

「朽ちてゆくまで」
では未来予知ができる女性。事故で両親を亡くし、8歳の時のその事故で過去の記憶を失った女性が、育ててくれた祖母の死後、両親の遺品を整理していたら押入れの奥に隠されるように置いてある箱を見つけた。それは彼女にとって「パンドラの箱」だったのだ。

箱の中身は両親が撮影した自分の子どもの頃のビデオテープで、自分に予知能力があった事を発見する。しかし両親の死は何故予知できなかったのか。

「燔祭」は発火能力を持つ女性。妹を殺されて復讐に燃える男の前に、自分の持つ特殊な能力を復讐に使って欲しい、自分を武器にして報復するように申し出る。彼女は念力で対象物を燃やす事が出来る、もちろん人間も焼き殺す事が出来る。

「鳩笛草」
は相手の心を読める女性。主人公の女性刑事はこの透視能力を利用して、交通課から刑事課へと、地位を上げてきている。そういった意味で自分の能力の重要性を強く自覚し、それを捜査に役立てる事が出来るのをこの上もなく有意義に感じ、自分の生きがいに思っている。

しかしある日、その能力が少しずつ失われていくことに気がつく。その能力が衰え始めた時どうなるか、力を失った時に自分には何も残らないと恐れる。それこそ命すらなくなってしまうのではないか。こういった葛藤がこの小説のテーマとなっている。

宮部みゆきは書いている。「どういう能力でもそれは必ず、便利さや楽しさと背中合わせに、厳しさや辛さ隠し持っている恥だと思います。例えその能力が“超能力”と呼ばれる種類のものであったとしても・・・。SFという形に思い切ってジャンプせずに、ミステリーや恋愛小説の中でこのテーマを書くことは出来ないか、と考えている内に、本書が生まれました。」(カッパノベルス版・著者の言葉)

大体超能力SFというと超能力を使って世界変革や巨悪との対決を描くタイプだ。しかし宮部みゆきの超能力者が登場する小説は多くあるが、全くタイプが違う。特殊な能力を持つ普通の人間の物語なのだ。読者も超能力者という感じで一段高いものを見るように相対するのではなく、一つの変わった力を持った普通の人として接する事が出来る人物として描かれている。

超能力を異質なものとしてではなく、誰にでもある特殊な能力の一つとしてとらえることによって超能力者を普通の日常に引き入れ、我々が共感できる人物像を作り出してきた。そして特殊な力を手に入れた個人が、その力とどう付き合っていくのか、というと問いが彼らには付いて回る。

人間は誰でも特殊な事情を抱えている。それを好のむと好まざるとにかかわらず付き合っていかなければならない。このような普遍的テーマが我々の共感を呼ぶのだろう。彼女のような形で超能力を扱った小説は、SF超能力の物語を天上から地上に引き下ろしたものといえるだろう。

テーマ : 思ったこと・感じたこと
ジャンル : 日記

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