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村上龍 『ストレンジ・デイズ』

10月19日(火)
51B0PB_convert_20101019124247.jpg 主人公反町は日本の主にアイドル系のバンドやミュージシャンを西日本にプロモートする会社の社長であったが、やってきた仕事の意味を見失い、仕事を休職し妻子を実家に帰し、鬱々とした日を送っている。

「脱力感と疲労感はあるが目の前のあらゆるものに興味をなくしただけで、どこかに何か新しく具体的なものがあればすぐにでも立ち上がって走り出すかもしれないのである。」(講談社単行本p9)

いままで何の疑問もなくやって来たことが、全く無意味で徒労であったとある日突然気がつきながら、他の生き方を見出せない絶望と憂鬱に押し流されながら日々時間を潰していっている。そのような反町は深夜のコンビニで天才的な演技力をもつ巨大トラックのドライバー・ジュンコに出会う。

彼女は血管の中にサナダ虫のような等身大の異生体を宿しているという。自分の中にもう1人の自分がいる。時にはそれが表面に出てくる。それは二重人格という意味ではなく、誰でも社会の中で、生活者としての自己と本当にやりたい事、隠れた資質を持っている自己があるが、普通多くの人は前者に引きずられた生活をしてそれに何の疑問を持たず日々の生活に送っている。

かって音楽性のかけらもないが、大衆迎合的なミュージシャンをプロモートしてきたその無意味さから決別し、反町はジュンコに会い彼女を女優にする事、本当の才能をもったジュンコの映画を作る事に新たな自分生き方を見出していく。しかしなかなか思うようにいかない。彼はひたすら自らの無力感にさいなまれる。それに対してジュンコは言う。

「人間が本当に必死でがんばる時ってどんな時でしょう?」
「必死って、必ず死ぬって書くんだよ、死ぬ気でがんばるってよく言うけどわたしはそれは違うと思う。死ぬ気でがんばるっていうのはイージーだと思うな、がんばってできなかったら死んでごめんなさいすればいいんだもん、何かを実現させたくて、それで実現できない自分を絶対に許せないっていう風に考えると、死んだりできないよ」

「死ぬ気でがんばろうなんて考えないで、まずできることは何だろうと、そう考えると思うんじゃないかな。」ジュンコは非常にわかりやすい正確な言い方をした。何かをやりたいという欲望を肯定する,それが実現できない,または実現しようとしない自分を絶対に許さない,実現のために,今できることは何かを考える,そしてそれをすぐにやり始める・・・・(p313~4)

自らの現状疑問を持ち、それを打破するために、そして新たな自分を見つけていくには今何が出来るかを考え実行に移していく外ない。いかに絶望と無力感にさいなまれながらもひとつずつ出来る事を積み重ねていく他ない。

この反町の感性の動揺、彼の憂鬱と無力感は、日本人の心の奥底に潜む憂鬱と絶望、不安が凝縮され表現されているのではないか。現代社会の閉塞感や憂鬱から、いかに脱出をはかるか、その試行錯誤と苦悩が反町の行動の中に表現されている。

現代社会は、際立った個性や存在を活かし伸ばすことが極めて難しくなっている。突出した者に対し、大衆化、平準化する事を最優先事項とし、ある時には社会的強制力さえ行使する。

反町は、音楽のプロモートをしていたが、大多数の人間が中身のない薄っぺらな音楽にうつつをぬかし、付和雷同的に群れ、世俗的な決まりごとに縛られているこの社会が、突然限り無く馬鹿げて見えてきて、もはやそういった世界への関わりが不可能になってしまった。しかしそれは反町に救いの無いような新たな試練を与えるものになる。自分の無力さというのを痛感していく主人公の反町は、次々と絶望と対峙することとなる。

「無力感だけが自分の輪郭を認識させる。オレは回りと際立っているのを無力感によってのみ確かめてきた。・・・そしてある時世界に亀裂が入り唯一の真実の装いで無力感が押し寄せてくる・・・悪くない。オレはやりたいことの0.1%もやっていなし、それが本当にやりたいことなのかどうかも分からない、だが、悪くない・・・」(p351~2)

このラストの表現で、反町は自分の無力さに絶望するのではなく、むしろ受け入れ、居直りながらそこから自らの生き方を見出していこうとしている。こういった過程を経ることを通してしか、現代社会で、自分が本当にやりたいと望む事を実現することは出来ないのだろう。

テーマ : 思ったこと・感じたこと
ジャンル : 日記

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がん治療とは長く細い道を辿ら
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