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村上龍 『ライン』

12月19日(日)
ライン2_convert_20101218203440 この小説は20の短編から構成されていると言えるだろう。小説に登場する18人は、全体的にはそれぞれ関係ないが、Vol.1の人物とVol.2の人物は関係あるが、Vol.1とVol.3の人物は全く関係がないといった鎖のようなつながりである。それが一つのラインとして現代社会に張り巡らされている。

全く無関係なバラバラな人間が登場する中で、一人ユウコというラインを流れる信号を読むことが出来る少女が通奏低音のように小説の中に現れる。小説は1章ずつ表題とずれて進行する。順子の章に向井の事が書かれ、ゆかりの章に順子の事が書かれている。章の最後にゆかりが登場し次の高山の章で展開される。

この小説について、村上龍はあとがきで次のように書いている。
「・・・精神的な空洞は、いまやごくあたりまえのものとしてあらゆる社会的階層に見られるものである。近代化を終えた現代を被う寂しさは有史以来初めてのもので、今までの言葉と文脈では表現できないのだ。どこかに閉じ込められているような閉塞感と社会と自分を切り裂きたいという切実な思いが交錯し空回りしている。・・・文学は想像力を駆使し、物語の構造を借りて、彼らの言葉を翻訳する。」(幻冬舎単行本 P208)

18人の登場人物は様々な社会階層に属している。それぞれ異なった表現形態を取りながらも、現代社会の真只中で、閉塞感、孤独感、精神的空洞を抱えながら生きている、作者はその表出を丁寧になぞりながら、そこに現れる行動や言葉を我々に提供している。各人の持つ心の病は、現代社会を写す鏡として、我々の置かれた状況の真実を一層鮮やかに浮き彫りにしていく。

18人の状況と心の状況を示す言葉をかなり要約する形で引用してみた。幼少期の家族関係、親の暴力、母親からの愛情の欠如、学校でのいじめ、学校の強権的支配、若年期の非行、青年期の挫折、職場での圧力、リストラなどが扱われている。これら現代社会の根底的な問題を抱える者たちが登場し、そのことが彼らの精神に重大な影響を与えている。

Vol.1 向井・・・写真関係の会社勤めのサラリーマン。資産家の長女で有名人との不倫亜関係にあると噂されている女性と結婚していたが離婚を切り出され別居中である。「感情をからだの内部に閉じ込める。それを子どもの頃から続けていると、表に出そうとしても、そのための回路がわからなくてできない。」(P19) ユウコの話を順子から聞く。

Vol.2 順子・・・向井がSMクラブから呼んだ女。小さい頃から継母に血を出すまで殴られていた。「昔から順子は思ったことを相手に言うべきかどうか異常なくらい考えるところがあった。・・・他人と話をするのが次第に面倒になっていき、やがて恐くなってきた。」(p30)

VoL.3 ゆかり・・・順子と同じSMクラブに所属している。トルエンと万引きで補導された。その後男の所を渡り歩く。母親がいつも父親に殴られていた。「ゆかりは、寂しくないという状況と無縁に生きてきたため、寂しいという概念を理解できない。」(p43)

Vol.4 高山・・・デザイン会社勤務。リストラの対象。ゆかりを襲う。「限度を超えた怒りが起きると、誰かの顔を壊したいという衝動が生まれるようになり・・・全く関係ない人間を通り魔的に襲った。」(P50)
「石が歯に強く当たって火花が出た。歯が折れる音。この女のびっくりした顔と、何かとんでもないことが起こってのに自分もまわりも何一つ変わっていないという奇妙な感じ。目と鼻に石を叩きつけた。」(P53)

Vol.5 小出・・・タクシー運転手。「小出の場合非現実の前兆と象徴は、日常的な時間や空間が切断されるというイメージではなく、自分を含めた動物のからだの一部や器官が突然伸縮を始めるというものだ。」(P62)精神科医が話したユウコの事を客に話す。

Vol.6 康子・・・中学の頃から家出を繰り返し、16歳になって京都に行き、色々な男と同棲した。クラブで働いている。「康子は、若くて貧乏で気の弱いブスな女の子を拾ってきては捨てることで、自分の不運を背負わせる事が出来ると信じていた。飽きるまで飼って、その後は放り出す。」(P71)

Vol.7 明美・・・康子に拾われて捨てられた女。「主に男だったが、よく殴られた。父親もよく明美を殴った。・・・ずっと人から殴られてきた人間は、目がうつろになるのだと言われた事がある。明美は自分の目がうつろだということを知らない。」(P76)

Vol.8 薫・・・喫茶店でアルバイトをしながら8ミリ映画を作っている。IQ170で自信過剰だったが、それが否定され拒食症になる。映像で瞬間の美を追求している。「自分が知らないことを当然知っているものとして話されたりすると、目の前が真っ暗になって、死にそうになってしまう。」(P85)

Vol.9 則子
・・・短大を出て10年以上大手町にある銀行に勤めている。幻聴から始まり、いわれのない苦痛に苦しめられる。「私には理由のない、苦痛があって、入り口だけの世界はその苦痛からは逆に自由になれるんです。」(P101)精神病院でユウコと知り合う。

VoL.10 ユウコ・・・電気のない部屋に住んでいる。ケーブルを流れる電気の信号が見えたり聞こえたりするからだ。両親は非常に若く、養育能力がないということでユウコは施設に引き取られ、2歳になった時に裕福なおじさんにもらわれた。病院とアパートの部屋を往復して暮らしている。

Vol.11 幸司・・・おじさんがユウコのために雇ったボディカード。ユウコの下の部屋に住んでいて何かあると部屋に駆けつける。母親が暮らし始めた男から何度も殴られた。「幸司はそうやって暴力でしか解決できない事がこの世の中にはある事を学んだ。」(P115)

Vol.12 フミ・・・母親が連れてきた男の連れ子。幸司の義妹。歌舞伎町のランジェリーパブで働いている。幸司の母親から熱湯をかけられるなどの虐待を受けていた。味覚が全くない。「内臓のどこかに眠っている記憶が襲ってくる。換気扇を常に回しているが、ときどきふいに部屋に漂ってくるあの街の魚のにおいを消すことはもちろんできない。」(P129)

Vol.13 敏彦・・・ヨシキと同棲しヨシキに暴行を繰り返す。「母親は消えては現れる、喪失感と安堵感が交互に繰り返されるうちに外の世界は自分の関与できない所で既に重要な決定がなされていると思うようになった。」(P138)
「中指の骨を少し突き出すようにしてこぶしを作り目にうまく当たると眼球という柔らかい期間がつぶれる官職が良く分って気持ちよかった。それ以降敏彦は目を殴ることで興奮するようになった。」(P134)

Vol.14 ヨシキ・・・敏彦と同棲している看護師。父親は酔うとヨシキを殴った。母親も殴られた。姉が自殺した。深夜のコンビニでキャベツを持った若い男に声をかけられる。
「むかついているんだったら今からウサギを殺しに行くから見にこない。小学校のウサギ小屋の鍵を壊してウサギをキャベツで校庭におびき出し、連れてきているフックステリアに襲わせる。ウサギの骨をあいつが噛み砕く音がミュージックなんだ。」(P148)

Vol.15 園田
・・・コンビニの店員、ボクシングジムに通っている。「高校2年の夏休みに登校拒否を実行したが、あのまま学校に行っていれば死んでいたと思う。公立の受験校で規則と罰と暴力の収容所だった。」(P158)

Vol.16 美奈子・・・エリートのキャリアウーマンである美奈子は、ストカーだった男と同棲を始めたがその男が他に女を作ったり、美奈子が妊娠すると男は絶対産めと迫る。美奈子は男を殺し、身体をバラバラに切断し死体を捨てに行く。
「母親は精神的に不安定な人だった。中学の頃から自分は母親の人形ではないかと悩むようになった。過食が始まり母親は太るとバレーができなくなると小九時制限をし、摂食障害の子どもを集めた施設に入れた。」

Vol.17 チハル・・・女子高校を退学になり、援助交際を行なっている。スピードの常習者で1度摂り始めると丸3日は眠らない。眠れない時の儀式を電話にした。毎朝それぞれの別の区や町に行って48時間から72時間、その一帯の公衆電話を回る。

Vol.18 杉野・・・技術開発から営業に回されたリストラの対象。希望退職者募集に応じ中堅音響機器メーカーを半年前に辞めた。条件闘争をしていた組合は希望退職の杉野を裏切り者だと決め付けた。杉野は大学時代からずっと一緒だった親しい友人をそれで失った。
退職後、神経が削られていくような喪失感を味わうようになっていた。それ以降杉野は友人が彼を破滅させるために付きまとっている、アパートが見張られている、監視を受けている、食べ物に毒を入れられるかもしれないという被害妄想に付きまとわれるようになる。

Vol・19 ユウコ2、Vol・20 他人
・・・ユウコは夜明け前の時間に散歩に出る。早朝だとほとんどの家の窓が閉まっていて、不愉快なラインを流れる電子音が遮断されている。
建売住宅の犬小屋に首に犬の鎖をつけた男が住んでいる。「埼玉で家族と暮らしている時はいつも寂しさを感じていた。今のおれが、本当のおれだと思う。おれとしてフィットしているんだ。」(P203)
息子から暴力を受けている父親から息子と話してくれと頼まれる。散歩で出会う様々な他人、ユウコは言う。
「人間は他人によって自分を確認している、もしそれが正しいのだったら、わたしには他人というものがいない。」(P207)

現代人が他者との関係を作ることの困難さは、コミュニケーションの難しさに起因しているのではないか。ヨシキは「自分は殴られる事で父親への愛情を全部消費することができたのではないか、殴るのも殴られるのもコミュニケーションの一つでコミュニケーションはとりあえず消費されなければいけないのではないか」と述懐する。

また息子の暴力に対して父親は語る「あいつはわたしに何にも言ってくれない。でもあいつがわたしを殴るのは一つのコミュニケーションだと思ったから、私への信号だと思ったから堪えてきたわけで。」

他者と関わりが希薄になり、それを結びつける手段としてのコミュニケーションが暴力という形でしか存在しないそれが今の社会状況の大きな現象といえるのではないか。この状況をどうしたらいいかの答えはない。作者は状況を提示し、問題提起をしただけである。後はこの矛盾に満ちた世の中をどう生きていくかは読者が個々人考えるほかない。

テーマ : 思ったこと・感じたこと
ジャンル : 日記

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Author:yosimine
がん治療とは長く細い道を辿ら
なければならない。その先に希
望があると信じながら。

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