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映画 『オーケストラ』

1月15日(土)
51Ued_convert_20110115231210.jpg ブルジネフ政権下の1980年、ロシア・ボリショイ交響楽団の天才指揮者のアンドレイは、楽団員のユダヤ人の迫害に反対し、とりわけユダヤ人の天才バイオリニスト・レアをかばう。KGBはアンドレイが指揮をし、レアがバイオリンを弾くチャイコフスキーバイオリン協奏曲が始まってから、舞台に登場し指揮棒を折り演奏を中止させてしまう。

アンデレイは翼を奪われたようだと言う。それ以降楽団を解雇されてしまう。アンドレイはいつか復職する日を夢見て、30年にもわたり劇場清掃員として働いていた。ある日パリのシャトレ座から送られてきた出演依頼のファックスを見つけ、偽のオーケストラを結成することを思いつく。

ソ連時代の圧政で地位を奪われたロシアの元天才指揮者が、30年後の今、共に音楽界を追われた演奏家たちを集め、ボリショイ交響楽団に成り済ましてパリ公演を行おうとする。そのためにアンドレイが昔の仲間を尋ね回るシーンは、他の映画でも良くあるが、段々と人が集まり、楽団を形成していくというパズルの抜けたところを埋めていくような面白さがある。

元の楽団員は、今では救急車やタクシーの運転手、蚤の市の業者、ポルノ映画のアフレコなど様々な職業で生業を立てている。しかし皆楽器を手放すことはなく、何らかの形で趣味としてでも演奏している。

楽団員60名分の偽造パスポートを使ったり、パリ行きの航空券は後払いだということで、その金を調達するために下手な金持ちのチェリストに参加を条件にスポンサーとして金を出させたりして、パリ行きの障害をクリアしていく。パリで足りないが楽器や演奏会用の服を闇の業者に頼んで集めたりして物理的な問題は解決するが、今度は、楽団員たちがパリでの自由を謳歌して行方をくらましリハーサル会場にも来ない。

どうにか演奏会本番までこぎつける。指揮者がタクトを取り上げ振ろうとするその時にも楽団員2名が到着していない。少し間をおいている間に2人が到着し演奏が始まる。チャイコフスキーのバイオリン協奏曲である。まさにリハーサルなしのぶっつけ本番だ。こういったはらはらどきどきといったコメディタッチの描写も映画の緊張をほぐしてくれる。

最初は楽器の調子が揃わずこのまままともな演奏は不可能ではなかと思われた。しかし、ソリストであるアンヌ=マリー・ジャンが協奏曲の主旋律を引き始めると、楽団員にチャイコフスキーの魂が乗り移ったように協奏曲が一体となったハーモニーを奏で始めるのであった。この映画の最後の協奏曲の1楽章の演奏はまさに圧巻であり、この映画の全てがここに収斂していく。

このようなパリのシャトレ座での演奏の成功への道のりと、同時にもう一つの謎が横糸として貫かれている。演奏会を通して自らの復活と楽団の再建以外に、アンドレイがパリ公演で人気のスターバイオリンニスト、アンヌ=マリー・ジャンをソリストとして指名した理由が演奏会のもう一つの大きな目的でもあったのだ。2人には深い因縁があったのである。それを知る事によってアンドレイが彼女のバイオリンでチャイコフスキーの協奏曲を演奏するということの重要な意味が浮かび上がってくる。そして最後にその謎が解かれる。

アンドレイは元KGBのマネージャーにいう、オーケストラは自由な心が集まって生まれる、各人が自分の力を最大限発揮し、それがハーモニーとなって一つの楽曲を作り上げていくものだ。むしろコミュニズムとはそういったものではないか。

圧制で楽団員としての職を奪われ、さまざまな困難を経験してきたのだろう。そして30年の年月を経てもなおかつ1つになりえる演奏家達の思いがあった。共に奏でた者のみが知る心の絆である。彼らをそこに導いたのは、音楽への深い愛情なのだろう。彼らの逆境を笑顔で力強く生きていく姿、そのしたたかさと強靭さには学ぶべきものがある。それは音楽が支えているのだろう。同時に人はいくつになっても情熱と勇気さえあれば、人生をやり直す事が出来るということを我々に強く訴えかけるている。

30年前に中断されたチャイコフスキーの協奏曲を再び演奏したい、これはアンドレイにとってあきらめようにもあきらめきれない想いである。これはある意味でレアへの鎮魂曲でもあるのだ。楽団員はそれぞれの30年間の思いをこの曲を演奏しながら解き放っていく。そしてその思いは一体となってチャイコフスキーのバイオリン協奏曲は飛翔する。

この映画の主旋律はチャイコフスキーのバイオリン協奏曲である。CDで持っているのはアイザック・スターンの演奏で素晴らしいものであるが、この映画で最後にそれまでの歴史が集約され、凝縮された形で奏でられる演奏を聴いた感動はまったく別ものであった。

また映画の随所にクラシック音楽が取り入れられている。モーツァルト、パガニーニ、バッハ、シューマン、ハチャトゥリアンなどの曲が演奏されている。クラシック・ファンにはかなり興味を引かれる映画に違いない。
(製作:2009年フランス映画、原題:Le Concert、劇場公開日:2010年4月17日)

テーマ : 思ったこと・感じたこと
ジャンル : 日記

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